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xrpl-dev-portal/content/concepts/consensus-network/transaction-malleability.ja.md
2021-06-11 16:52:57 -07:00

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html: transaction-malleability.html
parent: consensus-network.html
blurb: トランザクションが想定とは異なるハッシュを持つようにどのように変更される可能性があるか注意してください。
labels:
- セキュリティ
- トランザクション送信
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# トランザクション展性
署名後のトランザクションを、署名に使用されたキーを使用せずに変更できる場合、そのトランザクションには「展性がある」ことになります。XRP Ledgerでは、署名付きトランザクションの**機能性**は変更できませんが、場合によっては第三者がトランザクションの署名と識別用ハッシュを変更できる _可能性があります_
展性のあるトランザクションは元のハッシュでのみ実行できると想定して、脆弱なソフトウェアが展性のあるトランザクションを送信した場合、トランザクションの状況を把握できなくなる可能性があります。最悪の場合、不正使用者がこの点を悪用して脆弱なシステムから資金を盗むことが可能です。
次の2つの状況は、トランザクション展性の問題につながる可能性があります。
1. デフォルトの署名アルゴリズムECDSAとsecp256k1曲線を使用して署名されたトランザクションにtfFullyCanonicalSigフラグが指定されていない。
**[tfFullyCanonicalSigフラグ](transaction-common-fields.html#グローバルフラグ)を使用** して、トランザクションに展性がないことを保証します。[Ed25519キーで署名されている](cryptographic-keys.html#署名アルゴリズム)トランザクションはこの問題に対して脆弱ではありませんが、 _すべての_ トランザクションにこのフラグを使用しても **特に不都合はありません**
2. トランザクションが[マルチ署名済み](multi-signing.html)であり、署名の数が必要以上に多い場合。元々トランザクションに必要な数を上回る署名がされていなかった場合でも、権限のある署名者が追加の署名を提供すると、このトランザクションが展性を得ることがあります。
適切な運用セキュリティ対策を導入することで、このような問題を防ぐことができます。ガイドラインについては、[マルチ署名の展性の緩和対策](#マルチ署名の展性の緩和対策)を参照してください。
## 背景
XRP Ledgerでは、以下の条件に該当しない場合にはトランザクションを実行できません。
- 署名自体を除く[トランザクションのすべてのフィールド](transaction-common-fields.html)に署名がなされている。
- トランザクションの署名に使用されるキーペアが、[そのアカウントの代理としてトランザクションを送信することが承認されている](transaction-basics.html#トランザクションの承認)。
- 署名は _正規_ であり、トランザクションの指示に一致している。
署名付きフィールドに変更を加えると、どれほど小さな変更であっても署名が無効となるため、署名自体を除き、トランザクションのいかなる部分にも展性が生じることはありません。ほとんどの場合、署名自体を変更すると常に署名が無効になりますが、以下で説明するような特定の例外があります。
署名はトランザクションの識別用ハッシュの計算に使用されるデータの1つであるため、展性のあるトランザクションを変更すると、ハッシュ値が変わります。
### 代替secp256k1署名
「正規」であるためには、ECDSAアルゴリズムとsecp256k1曲線デフォルトを使用して作成された署名が以下の要件を満たしている必要があります。
- 署名が適切な[DERエンコードデータ](https://en.wikipedia.org/wiki/X.690#DER_encoding)である必要があります。
- 署名ではDERエンコードデータ外部に埋め込みバイトがあってはなりません。
- 署名を構成する整数はマイナスであってはならず、またsecp256k1係数以下でなければなりません。
一般に、あらゆる標準ECDSA実装ではこれらの要件が自動的に処理されます。ただしsecp256k1では、展性を防ぐにはこれらの要件では不十分です。したがってXRP Ledgerでは、同様の問題がない「完全に正規である」署名という概念を採用しています。
ECDSA署名はRおよびSと呼ばれる2つの整数で構成されています。secp256k1係数はNと呼ばれ、すべてのsecp256k1署名の定数です。具体的にはNは値`0xFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFFEBAAEDCE6AF48A03BBFD25E8CD0364141`です。署名`(R,S)`では、署名`(R, N-S)`Sの位置にN-Sを使用も有効です。
このように、 _完全に_ 正規である署名を使用する場合には、2つの有効な値のうちどちらを使用するかを選択し、もう一方が無効であることを宣言する必要があります。XRP Ledgerの作成者は、2つの有効な値`S``N-S`)のいずれか _小さい方_ を任意に選択すると決めました。トランザクションが選択された(小さな)値`S`を使用し、正規トランザクションとなるためのすべての標準ルールに準拠している場合、このトランザクションは _完全に正規_ であるとみなされます。
完全に正規である署名の生成が確実に行われていなかった古いソフトウェアとの互換性を維持するため、XRP Ledgerは完全に正規ではないトランザクションも受け入れます。新しいユーザーを悪用から保護するため、XRP Ledgerではトランザクション向けに[**tfFullyCanonicalSig**](transaction-common-fields.html#グローバルフラグ)というフラグがあります。このフラグが設定されている場合、トランザクションが有効となるには _完全に正規_ の署名を使用する必要があります。
完全に正規であるECDSA署名を計算するには、SとN-Sを比較していずれが小さいかを見極めて、トランザクションの`Signature`フィールドにその値を使用する必要があります。
Rippleが公開しているすべてのXRP Ledgerソフトウェア`rippled`およびripple-lib/RippleAPIを含むでは、完全に正規である署名のみが生成されます。ユーザーの保護を強化するため、Rippleは、可能な限りデフォルトで**tfFullyCanonicalSig**フラグを有効にするようにコードを構成しています。XRP Ledgerソフトウェアのサードパーティ実装においても、完全に正規である署名だけを生成し、デフォルトでトランザクションのtfFullyCanonicalSigが有効にすることを強く推奨します。
次の2つの状況においては、RippleのXRP Ledgerの署名実装によってtfFullyCanonicalSigフラグが自動的に有効になりません。次の状況では、フラグを慎重に設定する必要があります。
- ユーザーがトランザクションの`Flags`フィールドを明示的に指定している場合。ビット単位のORを使用してtfFullyCanonicalSig _と_ その他の必要なすべてのフラグを適用します。
- ユーザーがトランザクションにマルチ署名を提供する場合。マルチ署名の複数の参加者は _厳密に_ 同一のデータに署名する必要があるので、署名コードはtfFullyCanonicalSigフラグを追加するというトランザクションの指示を事前に処理しません。マルチ署名済みトランザクションでは、常にtfFullyCanonicalSigフラグを明示的に有効にしてください。
### マルチ署名の展性
マルチ署名の明示的で重要な機能として、さまざまな設定によってトランザクションを有効にできるという機能があげられます。たとえば、5人の署名者のうち3人の署名者の署名によってトランザクションを承認できるようにアカウントを設定できます。ただしこの場合、有効なトランザクションにはいくつかのバリエーションが存在する可能性があり、識別用ハッシュは各バリエーションごとに異なります。
以下のケースはすべて、トランザクション展性の問題につながる可能性があります。
- トランザクションへの署名を1つ以上を削除しても、まだその定数を満たすのに十分な数の署名がある場合。第三者が署名を削除し、署名なしでトランザクションを再送信できる可能性があります。
- すでに定数に達しているトランザクションに有効な署名を追加できる場合。このような署名を作成できるのは、送信側アカウントの権限のある署名者だけです。
- 定数を維持しながら、あるトランザクションの署名を、別の有効な署名に置き換えることができる場合。このような署名を作成できるのは、送信側アカウントの権限のある署名者だけです。
権限のある署名者に意図的な悪意がない場合でも、混乱や不適切な調整が原因で、複数の署名者が同じトランザクションの異なる有効バージョンを送信することがあります。
#### マルチ署名の展性の緩和対策
**適切な運用セキュリティ対策を導入することで、このような問題を防ぐことができます。** 通常、以下のような適切な運用セキュリティ対策に従っていれば、マルチ署名でのトランザクション展性の問題を防ぐことができます。
- 必要な数以上の署名を収集しない。
- 必要な数の署名を収集した後でトランザクションを作成する当事者を任命するか、または署名者が事前に定義された順序でトランザクション指示に署名して次に渡せるように「チェーン」を指定する。
- マルチ署名リストに不要な署名者または信頼できない署名者を追加しない。これは、これらの署名者のキーに関連付けられている`weight`の値が、トランザクションの承認には不十分である場合にも該当する。
- トランザクションが異なるハッシュまたは想定外の署名セットを使用して実行される可能性に対処できるよう備える。アカウントから送信されたトランザクションを注意深く監視する([account_txメソッド][]などを使用)。
- アカウントの`Sequence`番号を監視する([account_infoメソッド][]などを使用。この番号は、アカウントがトランザクションを正常に送信するたびに1ずつ増えますが、それ以外の状況で増えることはありません。番号が想定した番号と一致しない場合は、最近のトランザクションを調べてその原因を確認します。展性のあるトランザクションの他にも、このような状況が発生することがあります。たとえばトランザクションを送信するように別のアプリケーションを設定する場合などです。不正使用者が秘密鍵にアクセスした可能性もあります。あるいは、アプリケーションでデータが失われ、送信済みのトランザクションが忘れられた可能性もあります。
- トランザクションを再度作成してマルチ署名済みにする場合は、目的の処理がまだ実行されていないことを手動で確認している場合を除き、`Sequence`番号を変更 _しないでください_
- 署名前にtfFullyCanonicalSigフラグが有効であることを確認する。
セキュリティ強化のため、上記のガイドラインにより何重もの保護対策が講じられます。
## 展性のあるトランザクションを使用した悪用
XRP Ledgerとのインフターフェイスに使用するソフトウェアから展性のあるトランザクションが送信されると、不正使用者がソフトウェアをだましてトランザクションの最終結果を確認できなくし、最悪の場合同額の支払いを複数回送金させることが可能になります。
シングルシグネチャーを使用していて、tfFullyCanonicalSigフラグを常に有効にしている場合には、このような悪用に対し脆弱ではありません。マルチ署名を使用していて、署名者が必要な数を超える署名を提供する場合には脆弱になります。
### 悪用シナリオの流れ
脆弱なシステムを悪用するプロセスは、以下のような順で進みます。
1. 脆弱なシステムが、tfFullyCanonicalSigを有効にせずにトランザクションを生成し署名する。
トランザクションでtfFullyCanonicalSigフラグが有効に設定されない状況として以下の3つがあります。
- システムが`Flags`フィールドを明示的に指定し、このフィールドでtfFullyCanonicalSigビットが有効になっていない。
- トランザクションがマルチ署名済みであり、tfFullyCanonicalSigフラグが明示的に有効にされていない。
- システムでトランザクションのフィールドから`Flags`フィールドが省略されているが、署名時にtfFullyCanonicalSigを自動的に有効にしない非標準の実装が使用されている。
トランザクションがECDSAキーペアで署名されている場合、そのトランザクションは脆弱になります。マルチ署名済みの場合、トランザクションの署名に少なくとも1つのECDSAキーペアが使用される必要があります。
ほとんどの場合、脆弱なトランザクションには完全に正規である署名が使用されていますが、トランザクションが完全に正規ではない署名を使用していても、フラグはそのトランザクションが有効であると示します。また、限られた時間内に最終結果が判かるように、トランザクションで`LastLedgerSequence`が使用されていることもあります。
2. システムは脆弱なトランザクションの識別用ハッシュを確認し、そのハッシュをXRP Ledgerネットワークに送信し、検証済みレジャーバージョンにそのハッシュが記録されるのを監視し始めます。
3. 不正使用者は、トランザクションが確定する前にそのトランザクションがネットワークを通じて伝搬することを確認します。
4. 不正使用者が脆弱なトランザクションの代替署名を計算します。
異なるトランザクション指示の署名を作成する場合とは異なり、この場合は大量の計算処理は不要です。最初に署名を生成する場合よりもかなり短い時間で完了する可能性があります。
改ざんされた署名により、異なる識別用ハッシュが生成されます。(ネットワークに送信する前にハッシュを計算する必要はありませんが、ハッシュがあれば後でトランザクションのステータスを容易に確認できることを理解しています。)
5. 不正使用者が改ざんした(完全に正規ではない可能性のある)トランザクションをネットワークに送信します。
これにより、当初送信されたトランザクションと、不正使用者によって送信された改ざんバージョンが「競争」します。この2つのトランザクションが同時に記録されることはありません。いずれのトランザクションも有効ですが、`Sequence`番号をはじめ厳密に同一のトランザクションデータを含んでいるので、検証済みレジャーに記録できるのは常にいずれか1つになります。
ピアツーピアネットワークのサーバーは、どちらが「最初に到着した」トランザクションであるか、またはどちらが元の送信者が意図したトランザクションであるかを認識できません。ネットワーク接続での遅延やその他の偶発的な事象により、バリデータはコンセンサス提案をファイナライズする時点で、いずれかのトランザクションだけを認識する結果になる可能性があります。この場合、いずれかのトランザクションが「競争に勝った」ことになります。
もし不正使用者がピアツーピアネットワークで適切に接続しているいくつかのサーバーを乗っ取れば、これらのサーバーがバリデータとして信頼されていなくても、非正規トランザクションを確定できる確率を高めることができます。
脆弱なシステムからのトランザクションを唯一受信したサーバーを不正使用者が乗っ取った場合、不正使用者はネットワークの他の部分に配信されるバージョンを容易に制御できるようになります。
6. 不正ユーザーのトランザクションがコンセンサスに達し、検証済みレジャーに記録されます。
この時点でトランザクションは実行されており、このトランザクションを無効にすることはできません。その影響XRPの送金などは最終的です。本来のトランザクションは、その`Sequence`番号がすでに使用されているために有効ではなくなります。
XRP Ledgerでのトランザクションの影響は、本来のバージョンが実行された場合とまったく同じです。
7. 脆弱なシステムは、予期しているトランザクションハッシュを認識せず、トランザクションが実行されなかったという誤った結論に達します。
トランザクションに`LastLedgerSequence`フィールドが含まれている場合は、指定されたレジャーインデックスを経過した後でこの状況が発生します。
トランザクションで`LastLedgerSequence`フィールドが省略されている場合は、別の意味で誤っている可能性があります。つまり、同じ送信者からの他のトランザクションでは同じ`Sequence`番号が使用されていない場合、トランザクションはその後、時間の経過に関係なく、理論上成功します。(詳細は、[確実なトランザクションの送信](reliable-transaction-submission.html)を参照してください。)
8. 脆弱なシステムは、トランザクションが失敗したと想定してアクションを実行します。
たとえば、XRP Ledgerで送金されていないと判断した資金についての責任を果たすため、システムで顧客の残高に返金しますまたは単に引き落としを行いません
さらに、脆弱なシステムがトランザクションを置き換えるために新しいトランザクションを生成し、ネットワークの現在の状態に基づいて新しい`Sequence``LastLedgerSequence`、および`Fee`パラメーターを選択し、その一方でトランザクションの残りの部分は本来のトランザクションと同じ状態で維持することがあります。この新しいトランザクションにも展性がある場合、システムは何度も同じように悪用される可能性があります。
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